上場時の公募・売出において、国内投資家だけでなく海外の投資家への販売を行う場合がありますが、海外投資家に販売を行う場合でも
① 日本の法律に基づく開示書類(有価証券届出書や目論見書)とは別に、英文目論見書を作成し、米国のルールに基づき公募・売出を行う方法(主に北米や、アジア・欧州の一部の投資家への販売を想定)
② 日本の法律に基づく開示書類を利用し、公募・売出を行う方法(国内販売の一部として扱われる)
があります。
このうち②を「旧臨時報告書提出方式」または「旧臨報方式」などと呼ぶことがあります。(①は、②と区別して「グローバルオファリング」や「グローバルIPO」(IPOの場合)などと呼ばれます)
1.経緯
(1)2017年2月14日以前の「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下「旧制度」)では、海外において株式等の募集または売出を行う場合は、必ず臨時報告書の提出が必要でした。そのため、会社は、海外投資家への販売の方法①②のいずれの場合も臨時報告書を提出していました。
(2)2017年2月14日施行の「企業内容等の開示に関する内閣府令」では、海外において株式等の募集または売出を行う場合、「原則として臨時報告書の提出が必要」としながらも、例外として「有価証券届出書に所定の事項(※本項末尾参照)を記載した場合は、臨時報告書の提出は不要」との規定が追加されました。
(3)この規定の追加により、上場時の公募・売出株式を海外投資家に販売する場合でも、実務上、「臨時報告書を提出する場合」と「有価証券届出書に所定の事項を記載し、臨時報告書を提出しない場合」が生まれました。
2.臨時報告書を提出する場合(グローバルIPO)
この方法は、海外投資家への販売を行う場合の①に適用されます。
北米やアジア・欧州の一部の投資家は、投資検討にあたって、英文目論見書の入手を必須としており、これらの投資家に株式を販売する場合は、会社は、日本の法律に基づく開示資料とは別に、英文目論見書を作成する必要があります。
英文目論見書を作成した場合、会社は、有価証券届出書に加えて、英文目論見書を添付した臨時報告書を提出することで、開示内容の充実を図っています。
(注)金融庁は、「有価証券届出書には、英文目論見書の添付は不要」との考えを示しています。
3.有価証券届出書に所定事項を記載し、臨時報告書を提出しない場合(旧臨報方式)
この方法は、日本の法律に基づく開示書類を利用した勧誘を許容する海外投資家を対象に株式を販売する場合に適用されるのが通例です。(海外の投資家に販売を行う場合の②)
「旧制度では臨時報告書を提出していたが、現行制度では、臨時報告書を提出せず、有価証券届出書に所定の事項を記載して済ませる方式」という意味で「旧臨報方式」と呼ばれます。
4.グローバルIPOと旧臨報方式
グローバルIPOは、英文目論見書の作成等、追加コストの発生があっても、より広範囲な海外投資家にアクセスしたい場合に向いている方法といえます。
一方、旧臨報方式は、日本の法律に基づく開示資料を用い、当該開示を許容する海外投資家に限定してアクセスする場合に向いている方法と考えられます。(ただし、旧臨報方式の場合でも、ロードショーマテリアルの英訳は必要です)
※ 有価証券届出書への所定の記載事項
現行の「企業内容等の開示に関する内閣府令」第19条第2項第1号では、株式の海外での募集または売出を行う場合でも、以下の事項を有価証券届出書に記載した場合は、臨時報告書の提出を要しない旨を定めています。
イ 有価証券の種類及び銘柄
ロ 次に定める事項(株式の場合)
(i) 発行数又は売出数
(ii) 発行価格及び資本組入額又は売出価格
(iii) 発行価額の総額及び資本組入額の総額又は売出価額の総額
(iv) 株式の内容
ハ 発行方法
ニ 引受人又は売出しを行う者の氏名又は名称
ホ 募集又は売出しを行う地域
ヘ 提出会社が取得する手取金の総額並びに使途ごとの内容、金額及び支出予定時期
ト 新規発行年月日又は受渡年月日
チ 当該有価証券を金融商品取引所に上場しようとする場合における当該金融商品取引所の名称 等
なお、上記事項は、有価証券届出書の「第一部(証券情報)」の「募集又は売出しに関する特別記載事項」に一括して記載することが慣例となっています。(企業内容等開示ガイドライン5-3)
関連項目:臨時報告書