今回は、公開価格決定プロセスに関連して、
ダイナミックマッププラットフォーム㈱(以下D社)の事例を見ていきたいと思います。
(文中の考察部分は、私個人の推測によるもので、事実とは異なる場合があることをご了承ください)
(1)D社について
上場市場:2025年3月27日 グロース上場(主幹事 SMBC日興証券㈱)
筆頭株主:㈱INCJ
公開株数等:下表のとおり
●公募売出の概況(旧臨報方式)
時点 |
株価 |
公募 |
売出 |
オーバーアロットメント(OA) |
|
届出書提出 |
円 1,130 |
千株 4,344 |
千株 320.1 |
千株 699.6 |
第三者割当型 |
仮条件 |
1,130-1,200 |
4,810 |
1,350.0 |
924.0 |
売出型 |
公開価格 |
1,200 |
4,810 (1,507.3) |
1,620.0 (507.7) |
964.5 |
売出型 |
(注1)売出人 ジオテクノロジーズ㈱320千株、残りは㈱INCJ
(注2)公募・売出株数の下段は、それぞれ海外投資家への販売株数を内書きしている。
(2)届出書提出時
公募4,344千株、売出320.1千株(上場時時価総額は約260億円想定)。
売出はジオテクノロジーズ㈱ 320千株、筆頭株主の㈱INCJは0.1千株!です。
OAに係るオプションの行使金額がD社に払込まれることも併せて考えると、㈱INCJは、D社の資金調達を優先し、売出株数を抑えたように見えます。
(3)仮条件決定時
①仮条件は1,130円から1,200円です。ロードショーでの感触が想定よりも強かったようで、公募・売出株数ともに増やしています。(売出については、㈱INCJの売出株数を増やしています。)
②売出株数を1,350千株に増やしただけでなく、公開価格決定時に1,350千株の80%以上、120%以下の範囲で売出株数を決定する旨が開示されました。
③公募による資金調達を増やしたことを勘案し、OAに係るオプションの行使を「売出型」に変更しています。(オプションの行使金額は㈱INCJに払込まれます)
④国内・海外の機関投資家が、D社の公募・売出に関して「購入への関心」を表明している旨が開示されています。
⑤仮条件の範囲外での公開価格設定は採用されていません。
これは、ロードショーの反応を見て、D社の公募・売出額を最大にするためには価格を上げるのではなく、株数を増やす方が適していると判断したためだと思われます。(価格弾力性の問題)
(4)公開価格決定時
①公開価格は仮条件の上限の1,200円で決定。売出株数は1,350千株の120%に当たる1,620千株に決まりました。
②公募・売出株数のうち、海外投資家への販売は、合計2,015千株となりました。
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D社の例では、公開価格決定までに公募・売出株数を柔軟に動かしており、
このことから、主幹事証券が「機関投資家/個人投資家」、「国内/海外」などの配分と、公開価格を同時に決定していることが窺えます。
そして、公開価格決定の両輪ともいえる主幹事証券の「配分機能」と「価格発見機能」を十分に発揮させるためには、機関投資家が参加しやすいようにIPOの大型化が必要であるという点にも注意が必要です。
(原田)