3月に入り、東京は最高気温が20℃を超え、春の訪れを感じるかと思いきや、一転して雪模様となりました。三寒四温とはいえ、少し極端ですね。これも地球温暖化の影響なのでしょうか。
地球温暖化といえば、TCFDと有価証券報告書(有報)におけるサステナビリティ開示の関係性について、自分の中で少しもやっとしていたため整理してみました。
TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)は、「気候関連財務情報開示タスクフォース」の略称です。G20が「金融セクターが気候関連課題をどのように考慮すべきか」を検討するよう求めたことを受け、2015年12月に金融安定理事会(FSB)によって設立されました。TCFDは、気候関連の情報開示及び金融機関の対応を検討する民間主導のタスクフォースでしたが、2023年10月に解散し、その役割はIFRS財団の国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)に引き継がれています。
TCFDは、「気候変動に関する情報開示のあり方」に関する提言を公表し、その中で、気候変動に対する「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの構成要素による開示(TCFD開示)を推奨しました。
この提言を機に、国内外でTCFD開示の制度化が進展しました。
日本では、2021年6月のコーポレートガバナンス・コード改訂により、補充原則3-1③において、以下のように明記されました。
補充原則3-1③
上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。特に、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。
これにより、特にプライム市場上場企業に対し、TCFD開示が求められるようになりました。
さらに、2022年6月の金融庁・金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループによる報告において、TCFDだけでなく、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)などの国際基準とも連携し、有価証券報告書(有報)に「サステナビリティ情報」の記載欄を新設する提言がなされました。これを受け、開示府令が改正され、2023年3月期決算企業から「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示が義務化されました。また、IPO準備企業が作成する「Ⅰの部」においても、同様の取り扱いとなっています。
開示府令において、サステナビリティ開示の「記載上の注意」は以下のとおりであり、国際的な比較可能性の観点から、TCFD開示の4つの構成要素を踏襲しています。
(30―2) サステナビリティに関する考え方及び取組
最近日現在における連結会社のサステナビリティに関する考え方及び取組の状況について、次のとおり記載すること。ただし、記載すべき事項の全部又は一部を届出書の他の箇所において記載した場合には、その旨を記載することによって、当該他の箇所において記載した事項の記載を省略することができる。
a ガバナンス(サステナビリティ関連のリスク及び機会を監視し、及び管理するためのガバナンスの過程、統制及び手続をいう。)及びリスク管理(サステナビリティ関連のリスク及び機会を識別し、評価し、及び管理するための過程をいう。)について記載すること。
b 戦略(短期、中期及び長期にわたり連結会社の経営方針・経営戦略等に影響を与える可能性があるサステナビリティ関連のリスク及び機会に対処するための取組をいう。cにおいて同じ。)並びに指標及び目標(サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する連結会社の実績を長期的に評価し、管理し、及び監視するために用いられる情報をいう。cにおいて同じ。)のうち、重要なものについて記載すること。
c bの規定にかかわらず、人的資本(人材の多様性を含む。)に関する戦略並びに指標及び目標について、次のとおり記載すること。
(a) 人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針(例えば、人材の採用及び維持並びに従業員の安全及び健康に関する方針等)を戦略において記載すること。
(b) (a)で記載した方針に関する指標の内容並びに当該指標を用いた目標及び実績を指標及び目標において記載すること。
ただし、この「記載上の注意」だけを読んでも、開示の背景や意図を十分に理解することは難しいかもしれません。
Ⅰの部におけるサステナビリティ開示を検討されている方々は、急がば回れで、2022年6月公表のディスクロージャーワーキング・グループ報告の「Ⅰ.サステナビリティに関する企業の取組みの開示」に目を通すことをお勧めします。
(加藤)