2024年10月25日付の日本経済新聞朝刊では、『監査法人「ビッグ4」、IPOに再注力』という記事が出ていました。2024年のIPO件数(監査法人別)では準大手の太陽監査法人に首位を明け渡すなど、大手監査法人は近年、人手不足などを背景に、IPOの監査業務に敬遠気味となっていた感がありましたが、記事では、PwC Japan監査法人が昨年12月に「IPO事業戦略室」を設置、あずさ監査法人では今年1月に「IPO統轄部」を立ち上げ、そしてトーマツでも今年6月に「IPO監査事業部」が発足させたとのことで、再びIPOに力を入れ出した、と報じています。
また、週刊経営財務が毎年調査し公表している年間の監査人の異動状況ですが、直近2023年の結果(2024年1月15日 3637号・1月22日 3638号掲載)では、2008年の調査開始以来最多件数となった2022年から47件減少し、3年ぶりに200件を下回り184件となったとのことでした。中でも、大手監査法人から準大手・中小監査法人への異動が前年の158件から87件に減少し、ここ数年続いていた大手からの異動が一段落してきた格好とも報じています。前述の大手がIPOに再注力という記事の動きにもあるとおり、大手監査法人のリソース不足も少し落ち着き始めたというところでしょうか。
一方で、監査人異動の理由は、「監査報酬(費用)の増額・改定・相当性」としたものが全体の83.2%と引き続き最も多くなっているようです。ちょうど1年ほど前のブログでも監査報酬の動向について触れておりましたので、直近動向の定点観測として、監査報酬関連の最新データを改めて眺めてみました。
①日本公認会計士協会による「監査実施状況調査」
日本公認会計士協会が毎年公表している「監査実施状況調査」ですが、直近では2023年12月20日に2022年度版(2022年4月期から2023年3月期に係る監査実施状況)が公表されています。
金商法監査(4,201社)における1社当たりの平均監査時間は4,163.1時間(前年比3.35%増)、1社当たりの平均監査報酬金額は49,438千円(前年比2.87%増)といずれも前年に比べて増加となり、平均監査時間は5年連続の増加、平均監査報酬額は8年連続の増加となっています。なお、1時間当たり平均単価に関しては11,875円と前年度の11,931円から微減(前年比0.47%減)となっています。
上場会社全体の監査実施状況としては、引き続き監査時間が増加していることに伴い、監査報酬額自体は増加傾向にある模様です。
②当社【IPO DB】における新規上場会社の直前期の監査報酬金額
Ø 連結有無別・売上規模区分別の監査報酬平均額(2018年以前 vs 2019年以降)
以下の【表1】は、当社【IPO DB】の情報を基に、2011年以降、直近2024年12月末までの国内の新規上場会社(上場予定を一部含む。TOKYO PRO Marketを除く。)が上場承認時に提出した有価証券届出書に開示されている直前期の売上高及び直前期の監査報酬金額を、2018年以前の期間(2011年~2018年の8年間)と、2019年以降直期までの期間(2019年~2024年の6年間)の平均に分けて、連結財務諸表の作成有無及び売上高の金額規模別に集計した結果となります。なお、売上規模の区分は、①の日本公認会計士協会の「監査実施状況調査」の金商法監査実施状況の売上高区分に準じて集計しています。
【表1】
2018年以前の期間と2019年以降の期間の対比につきましては、昨年のブログで触れた際と同様の状況で、各区分内での売上高平均金額水準は概ね大きく変わらないものの、2019年以降の期間の平均監査報酬額が、2018年以前の期間の平均監査報酬額をどの売上規模の区分においても上回る結果となっています。
また、下記【表2】のとおり、2019年以降の期間について、昨年のブログでの集計時点(2023年10月末)と今回の集計時点(2024年12月末(予定含))での比較もしてみましたが、前回集計時点から今回にかけての大きな変動はないものの、監査報酬はおそらく微増が続いているものと推測しています。
【表2】
Ø 分類(大手・準大手・中小)別の監査報酬平均額(売上10~50億円未満・売上10億円未満)
下記【グラフ1】と【グラフ2】は、当社【IPO DB】の情報を基に、2021年から2024年までの新規上場会社(上場予定を一部含む。TOKYO PRO Marketを除く。)のうち、ボリュームゾーンの売上規模区分である売上高10億円から50億円未満の会社及び売上高10億円未満の会社(連結の有無については区別せず)について、監査法人の分類別(大手・準大手・中小)にその社数(棒グラフ)と監査報酬平均額(折れ線グラフ)の推移を表したものです。
【グラフ1】(監査法人分類別)売上高10億円から50億円未満の新規上場会社の社数・報酬額推移
【グラフ2】(監査法人分類別)売上高10億円未満の新規上場会社の社数・報酬額推移
上記のグラフから、大手監査法人と準大手・中小監査法人との監査報酬の金額水準の違いが明確に見て取れると思います。また、いずれの監査法人においても報酬水準は年々右肩上がりとなっていますが、特に直近2年における大手監査法人の報酬の上がり方の角度が高く見えます。これは、対象の中にIFRS適用企業やディープテック企業がいくつか含まれ、相対的に監査工数が多くかかっていることなどが要因ではないかと推測されます。
今後も、IPO企業の監査報酬の水準について定期的にその動向について分析していきたいと思います。
(畠中)