この9月でラルクに入社して丸2年が経ち、3年目を迎えることができました。そして本日は本当にたまたまですが、自身の誕生日で49歳となりました。40代ラストイヤーも引き続き上場を目指す会社様のご支援に邁進してまいる所存です。
さて、最近の日経新聞で、内部通報の活用が進まないことから、公益通報者保護法(以下「同法」といいます)の改正議論が消費者庁の有識者検討会で現在行われている、という記事を見かけました(2024年8月24日 日経電子版)。
上場準備会社では従来より、上場会社としてのコンプライアンス体制整備の一環として、外部窓口の設置も含めた内部通報制度の整備・運用が求められており、コーポレートガバナンス・コード(原則2-5 内部通報、補充原則2-5①)においてもその考え方が明確にされているところであります。
加えて、改正法が直近2022年6月に施行された同法においては、常時使用する労働者の数が300人を超える事業者は、同法で定義されている公益通報に適切に対応するために必要な体制の整備義務が課され、その義務に違反していた場合には、消費者庁による助言や指導、勧告、公表などの行政処分がなされる場合があることも明確にされました。つまり、従業員300人超の会社において、内部通報制度を適切に整備・運用できていない場合には、上場・非上場に関わらず、法令違反につながる事象となりうるということです。実際に消費者庁からは、2023年4月から2024年3月末までの期間において同法に基づく是正指導(助言、指導及び勧告)が24件あったと公表されています(消費者庁HP:2024年4月15日 公益通報者保護法に基づく是正指導の件数について)。まだ記憶に新しいビックモーター社の件も、おそらくこの実績件数に含まれているのではないでしょうか。
同法は、公益通報を行ったことを理由として、事業者による労働者の解雇や派遣契約の解除、労働者・派遣労働者・役員に対する不利益取扱を禁止するとともに、通報対応に必要な体制整備義務も課していますが、事業者側への罰則規定は現状盛り込まれておらず、前述の記事においては、事業者側における犯人捜しや報復人事への懸念が内部告発を阻んでいるとの指摘があり、事業者側の責任を重くするかどうかが焦点となっていて、欧米のように違反事業者への罰則導入を求める声があるのに対し、一方の経済界側には慎重論が根強いという論調のようです。
今回、改めて同法の公益通報者保護制度を眺めてみましたが、あくまでも「公益」に反する事象をあぶりだすことが目的の一つでもあるため、会社が社内で任意に設置する一般的な内部通報制度と比較して、以下の3点に特徴があると感じました。
①公益通報者
同法が保護の対象とする「公益通報者」には、役員や直接雇用関係にある労働者だけでなく、派遣労働者、請負契約等の業務委託従事者も含まれ、退職後1年以内の労働者や派遣労働終了から1年以内の派遣労働者も対象に含まれるとされています。
会社が任意に設置する一般的な内部通報制度では、通報者については現役の役職員を想定していることが多いように思いますが、同法の体制整備義務を負う会社においては留意が必要な点かもしれません。
②通報対象事実
通報内容に関する「通報対象事実」については、同法別表8号の法律を定める政令で指定されている法律(2024年4月1日現在で500もの法律が対象)に違反する犯罪、過料対象行為、又はそれらにつながる恐れがある法令違反行為、とされています。
この点、例えばパワハラやセクハラについて、いずれも犯罪、過料対象行為、又はそれらにつながる恐れがある法令違反行為とされていないことから、同法における通報対象事実には該当しないという解説が通報対象事実(通報の内容)に関するQ&A(消費者庁HP)に紹介されていますが、会社が任意に設置する一般的な内部通報制度としては当然取り扱うべき事象と考えられます。
③保護の対象とされる通報先
同法が想定している通報先として、(A)会社が定めた社内・社外の窓口だけでなく、一定の要件を満たせば(B)処分・勧告等の権限を有する行政機関や(C)その他通報することが被害発生や拡大の防止に必要と認められる者(下記例示を参照)についても、通報者が保護される対象とされています。
<通報先に関するQ&A(消費者庁HP)に記載されている(C)「その他の外部通報先」の例示>
・消費者利益の擁護のために活動する消費者団体
・加盟事業者の公正な活動を促進する事業者団体
・行政機関による不正行為等を監視する各種オンブズマン団体
・弁護士や公認会計士が運営する公益通報者支援団体
・国政調査権を行使する国会の議員
・多数の者に対して事実を知らせる報道機関
会社が任意に設置する一般的な内部通報制度の通報窓口は、当然(A)を前提とすることになりますが、公益の観点から許容されるべき事情があれば、(B)や(C)を通報先として活用されることもやむを得ないという判断でしょうか。
これまで様々な会社の上場準備過程を側面から見ていた中で、一定数の内部通報が社内窓口に届いている会社もありましたし、通報制度を設けてから1件も通報が無い、という会社もありました。後者の場合、本当に何も問題が無くゼロ件の場合もあったと思いますし、「会社が設けた窓口には通報しにくい(しても無駄)」という沈黙のメッセージのようなゼロ件のケースも中にはあったかもしれません。実際に、会社が設けた社内外の内部通報窓口への通報実績件数はゼロで推移していたにも関わらず、そこを飛び越えて外部の窓口(例えば、監査法人、主幹事証券会社並びに東証等の情報受付窓口)に通報が直接届くケースも少なからず見受けられました。
会社に内在している問題が、同法が想定する社外への通報などによって明るみにされることは、レピュテーションリスクの観点からも本来避けるべき事態であり、このご時世下ではイメージダウンによる損害は計り知れません。会社にとって、問題が小さなうちに会社内で自ら芽を摘むことができる、自浄作用を健全に働かせる仕組みは、企業の継続性にも直結する重要なリスク管理の一つと言えます。
健全な企業運営を続けていける会社はおそらく、同法改正による事業者側への罰則導入を機に重い腰を上げるまでもなく、内部通報制度自体の本質的な重要性を十分に認識し、経営陣が様々な意見を受け止めて聞く耳を傾けるスタンスを持ち、良くないことを見かけたら見て見ぬふりをしない、従業員が様々な意見を言いやすいといった風通しの良い企業風土を作りあげているのではないでしょうか。
(畠中)