ベンチャーキャピタル等の持株比率が高い会社が上場する際に、有価証券届出書の「事業等のリスク」に、以下のような内容を記載することがあります。
(記載例)
ベンチャーキャピタル等の株式保有割合について 本書提出日現在における、ベンチャーキャピタルまたはベンチャーキャピタルが運営するファンド(以下、VC等)が保有する当社株式の合計はX,XXX,XXX株で、当社発行済株式数のYY.Y%となっております。 一般的にVC等が未上場会社に投資を行う目的は、上場後に当該株式を売却してキャピタルゲインを得ることであるため、上場後に、所有する当社株式を売却することが想定され、そのような場合には、短期的に当社株式の市場価格等に悪影響が生じる可能性があります。 |
私は、新規上場会社の「事業等のリスク」に上記の記載を見つけると、有価証券届出書の「株主の状況」と見比べながら、どの株主をVC等としてカウントしているのか「答え合わせ」をしているのですが、以下に示すような「ベンチャーキャピタルの範囲の捉え方」が原因で、答え合わせに苦労することがあります。
例1:特に断りがない限り、コーポレートベンチャーキャピタル(事業会社やファンド)は、VC等にカウントされていない。
例2:ベンチャー投資とは別にバイアウト投資等を行っている投資会社は、VC等にカウントされていないことがある。
例3:ベンチャーキャピタルまたはベンチャーキャピタルが運営するファンドが、信託銀行名義で株式を保有している場合は、VC等にカウントされていると思われる。
(注)上記原因は、いずれも「答え合わせ」の結果をもとに推定したものです。
これらの例を見ると、各社は細かい所まで考えて、事業等のリスクの文章を作成していることが窺えます。
ただ、私の他にも「どの株主をVC等としてカウントしているのか」と疑問に思った方がいたのか、最近になってVC等の範囲を、より詳しく記載する事例が出ているので、以下にご紹介します。
●S&J㈱の開示例(2023年12月15日上場)
VC等の範囲を「親会社等グループに属する株式会社マクニカが組成した民法上の組合」と明示しています。
●Cocolive㈱の開示例(2024年2月28日上場)
VC等の範囲を「コーポレートベンチャーキャピタル及びベンチャーキャピタルが組成した投資事業組合」とし、コーポレートベンチャーキャピタルを含めた持株数と比率を開示しています。
●㈱QPS研究所の開示例(2023年12月6日上場)
VC等の範囲を「ベンチャーキャピタル、ベンチャーキャピタルが組成した投資事業有限責任組合及びベンチャーキャピタル又は投資事業有限責任組合が株式事務を委託した代行機関、金融商品取引業者」としたうえで、VC等にカウントした株主の名称と保有株数のリストを開示しています。
(私の記憶では、VC等にカウントした株主のリストを開示した会社は、㈱QPS研究所だけなのではないかと思います。)
VC等の持株比率に関する開示内容は、VC等の持株比率に加えて、株主の投資スタンスやロックアップ契約の締結状況等、各社の事情を勘案して決めているでしょうから、新規上場会社に一律の取扱いを求めることは難しいと思いますが、その代わりに、各社の工夫により開示内容の改善が行われているのだと感じます。
(原田)