最近、Z世代と言われている世代のモノ消費離れが挙げられており、従前と比べてモノへの欲求が低くなっている状況を踏まえて、人間性心理学の生みの親と言われているマズローが提唱した「マズローの欲求段階説」に当てはめてアプローチしてみたいと思います。「マズローの欲求段階説」は、60年以上前に提唱された古典的な理論であり、単純化されすぎているとの批判はありますが、現在でも通用する概念と思われます。
「マズローの欲求段階説」とは、人間の欲求が5段階で構成されていることを表した説となっています。マズローの欲求は、①生理的欲求、②安全の欲求、③社会的欲求、④承認欲求、⑤自己実現欲求の5段階に分けられ、最下層部にある「生理的欲求」から順番に上へ向かってクリアすることにより、最終的に自己実現に至るという理論となっています。
①生理的欲求:食事、水分、睡眠などの基本的な生存に必要な本能的な欲求で、これらが満たされないと、他の欲求には注意を向けられないこととなります。
②安全の欲求:身の危険を感じるような状況から脱したいという欲求であり、経済的安定や身体的な安全性が確保された環境で、安心して暮らしたいという欲求です。
③社会的欲求:集団に所属したい、仲間を得たいという欲求のことで、家族や友人、会社等の集団に受け入れられたいと願う欲求です。
④承認欲求: 他者から認められたいと願う欲求のことで、「所属している集団の中で認められたい」、「他者から尊敬されたい」といった欲求です。
⑤自己実現欲求:自分が満足できる自分になりたいという欲求のことで、自分の人生観・価値観などに基づいて「自分らしく生きていきたい」と願う欲求とも言えます。
マズローは、これらの欲求がピラミッド状に配置されており、下位の欲求が満たされることで上位の欲求が生じると考えました。ただし、すべての人が同じ順序でこれらの欲求を追求するわけではなく、個々の文化や状況によって優先順位が変わることもあります。
この5つの欲求のうち、「生理的欲求」と「安全の欲求」は生きるために必須の欲求であり物質的欲求である一方、「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」の3つは生命に必要ではありませんが、心の満足度にかかわる欲求であることから精神的欲求として分類されます。
Z世代は、基本的に、「生理的欲求」と「安全の欲求」のような物質的欲求は当然に満たされており、「社会的欲求」については家族や会社等の何らかの集団に属しており、「社会的欲求」は満たされていることを前提とすると、次の段階である「承認欲求」「自己実現欲求」を満たすような行動をする傾向があることとなります。Z世代に限らず多くの人が、物の所有等の物質的欲求よりも経験やサービスに価値を見出し、SNSで社会と繋がりたいと思う「承認欲求」や自分らしい生き方やキャリアを追求する「自己実現欲求」を求めるのは、欲求段階説では理にかなった行動と考えられます。
また、IPOを目指すという行動についても、承認欲求や自己実現欲求を満たしたいという願望の現れであり、IPOを目指す要因の一つに挙げられると思われます。
なお、マズローは、後年になって、「自己実現欲求」よりも一段階上の6段階目の欲求「自己超越欲求」を追加しています。「自己超越欲求」は、自分のエゴを超えたレベルでの理念の実現を目指すもので、たとえば「世界の貧困をなくす」などの自分の外側にあるものに対する貢献を指します。具体的には慈善活動や寄付などは自己超越欲求の例として挙げられています。
(黒川)