2023年10月1日承認分から、IPOの公開価格設定プロセスに関するルールが一部変更されました。
今回は、新ルールの内容を以下のA〜Dに区分し、その開示や適用の状況を見ていきたいと思います。
(手作業による集計のため、見逃し等があるかも知れません。その点はあらかじめご了承ください。)
1.集計対象と新ルールの概要
(1)集計対象:2023年10月1日以降に東証の一般市場へのIPOが承認され、2023年中に上場する18社(2023年12月19日現在。TOKYO PRO Marketから一般市場へのステップアップ1社を含む)
(2)新ルールの概要と項目ごとの届出書等への記載社数
項目 |
新ルールの概要 |
届出書等に記載した社数 |
A |
上場承認日から上場日までの期間短縮(S-1方式) |
0社 |
B |
届出書提出日から公開価格決定日までは、上場日に幅を持たせる |
4社 |
C |
ブックビルディングをやり直すことなく、仮条件の範囲外での公開価格の設定や売出株数の変更が可能 ・ 仮条件価格帯、売出株式数、オファリングサイズを当初予定の 80%〜120%の範囲で変更可能 |
13社 |
D |
訂正届出書の交付により、数週間から数ヶ月の上場日の延期が可能 |
12社 |
(注1)新ルールの詳細については、日本証券業協会の以下のページをご参照ください。
https://www.jsda.or.jp/shijyo/minasama/koukaikakaku.html
(注2)新ルールを利用する場合(項目C、Dについては実施する可能性がある場合)は、届出書等にその内容を記載する必要があります。
上表の社数は、有価証券届出書(または、仮条件決定時の訂正届出書)の「証券情報」に、新ルールの利用について記載した会社数を表しています。
2.個別事例
項目Bについて
(1)有価証券届出書に、上場日に幅を持たせたる旨を記載した会社は18社中4社で、日程のパターンは2つあるようです。(なお、この4社はいずれも、幅を持たせた日のうち最も早い日を上場日に決定しています)
① |
仮条件決定日は固定し、公開価格決定日と上場日に幅を持たせる方法 |
Japan Eyewear Holdings㈱ ブルーイノベーション㈱ |
② |
仮条件決定日、公開価格決定日、上場日に幅を持たせる方法 |
㈱ロココ ㈱早稲田学習研究会 |
項目Cについて
(1)項目Cについては、18社中13社が仮条件決定時までに、ルールの利用の可能性について届出書等に記載しています。
なお、記載が見当たらなかった以下の5社は、従来のルールで価格設定を行ったと思われます。
㈱QPS研究所、アウトルックコンサルティング㈱、S&J㈱
ナイル㈱、㈱ナルネットコミュニケーションズ
(2)項目Cについて届出書等に記載した13社のうち11社は、「公開価格の仮条件外での決定」「売出株数の変更」「オファリングサイズの範囲」の3項目について記載しています。
他の2社(㈱雨風太陽、ヒューマンテクノロジーズ㈱)は、「公開価格の仮条件外での決定」のみについて記載しています。
(3)3項目を記載した11社について、「証券情報」での記載箇所を確認したところ、以下の3パターンがありました。
|
募集要項 |
売出要項 |
募集又は売出しに関する 特別記載事項 |
① |
公開価格 |
売出株数 |
オファリングサイズ |
② |
公開価格 オファリングサイズ |
売出株数 オファリングサイズ |
- |
③ |
公開価格 オファリングサイズ |
公開価格 売出株数 オファリングサイズ |
- |
(注3)記載のタイミングについては、「有価証券届出書提出時から記載」と「仮条件決定時の訂正届出書で初めて記載」の2通りがありました。
(4)公開価格決定時に実際に項目Cが適用されたのは13社中、以下の4社で、いずれも仮条件の上限の120%で公開価格を決定しています。
ブルーイノベーション㈱、雨風太陽㈱、㈱ロココ、ヒューマンテクノロジーズ㈱
項目Dについて
項目Cについて記載した13社のうち、ヒューマンテクノロジーズ㈱を除く12社が、「上場日延期の可能性」について、仮条件の再設定に関連付けて記載しています。
なお、2023年12月19日現在、項目Dを適用して上場日を延期した会社はありません。
その他(会社法上の払込金額との関係)
新ルール導入の前から、届出書等には「引受価額が会社法上の払込金額を下回る場合は募集を中止する」旨の記載がありました。(募集が行われる場合)
この記載は会社法の規定に由来するもので、新ルールと直接関係はありません。しかしこの記載が制約となり、項目Cを適用する場合でも、公開価格を仮条件下限の80%まで下げることができません。(注4)
項目Cについて記載した13社のうち9社は、この点について「公開価格決定の範囲」と会社法上の払込金額を関連付けて記載しています。
一方、他の4社(Japan Eyewear Holdings㈱、ブルーイノベーション㈱、㈱魁力屋、㈱yutori)は、それぞれを別々に記載しています。
(注4)本件に付いては、当社用語集の「公開価格決定の範囲について」を併せてご覧ください。
以上、新ルールの事例を駆け足でご紹介しました。
正直なところ、新ルールに関して「証券情報」の記載にこれほどバラツキが出るとは思いませんでした。
そしてこのバラツキは、発行体固有の事情や市場環境だけでは説明できないような気がします。
もしかするとこれは、「引受け魂(だましい)と開示スピリットを賭けた主幹事証券のぶつかり合い」の産物なのかも知れません。(たぶん)
(原田)