前回のブログでは、上場企業を監査する監査法人が、大手から準大手や中小の監査法人に交代するケースがここ数年増えていることや、従前は大手の監査法人のシェアが高かったIPOの世界でも、中小や特に準大手の監査法人がここ数年でシェアを伸ばしている動向について触れさせて頂きました。
昨今、監査法人の交代を行う理由として最も多く挙げられているのが、監査報酬の問題です。週刊経営財務が調査し公表している結果(2023年5月22日 3605号)によりますと、2022年に行われた監査人交代のうち、交代理由を「監査報酬(費用)の増額・改定・相当性」としたものが全体の77.5%と最も多く、4年連続で最多となっているそうです。
また、日本公認会計士協会が毎年公表している「監査実施状況調査」の2021年度版(2021年4月期から2022年3月期に係る監査実施状況)が2023年2月17日に公表されていますが、金商法監査(4,168社)における1社当たりの平均監査時間が4,028.1時間(前年比1.06%増)、1社当たりの平均監査報酬金額は48,058千円(前年比2.01%増)といずれも前年に比べて微増となり、平均監査時間は4年連続の増加、平均監査報酬額は7年連続の増加となっているようです。
IPOの監査についても、同じような動向にきっとあるものだろう、と感覚的には感じておりました。
そこを具体的に可視化してみようということで、今回、当社【IPO DB】の情報を基に、2011年以降、直近2023年10月末までの国内の新規上場会社(TOKYO PRO Marketを除く)が上場時に提出した有価証券届出書に開示されている直前期の売上高及び直前期の監査報酬金額を、最近約5年間(2019年~2023年10月末)の平均とそれ以前の期間(2011年~2018年の8年間)での平均に分けて、連結財務諸表の作成有無及び売上金額規模の別に集計してみた結果が、以下の表の通りであります。
なお、下記の情報は、集計期間内に新規上場を果たした会社を集計した情報であり、特に、グループの状況やリスク要因等によって個々の報酬金額に差が生じやすいと考えられる売上500億円以上の規模の会社数の母集団が最近約5年間では減っていること等、単純な比較はできない側面がありますが、あくまで大枠の傾向を掴むための参考としてご覧頂ければ幸いです。
日本公認会計士協会の「監査実施状況調査」の金商法監査実施状況の売上高区分に準じて、売上規模の区分別に監査報酬の平均金額を集計してみたところ、各区分内での売上高平均金額水準は概ね大きく変わらないものの、2019年以降の約5年間の平均監査報酬額が、2018年以前の8年間の平均監査報酬額をどの売上規模の区分においても上回る結果となっています。
特に顕著と思われるのが、売上規模の区分別で新規上場会社のボリュームゾーンとなっている、売上高が50億円未満の会社に対する報酬水準の底上げで、以下、散布図に表してみました。
まず、2011~2018年の期間に新規上場上を果たした、売上高が50億円未満の会社(「売上10億円未満」及び「売上10億円以上~50億円未満」の区分に属する会社。連結有り無しどちらも含む。)に関して、売上高と監査報酬額の相関をエクセルで散布図としてマッピングしてみたものが、下記「散布図①」となります。
次に、直近約5年間の2019~2023年10月末の期間において新規上場を果たした、売上高が50億円未満の会社に関して、散布図①と同様に売上高と監査報酬額の相関をエクセルで散布図としてマッピングしてみたものが、下記「散「散布図②」です。
「散布図①」における近似直線は5百万円超~15百万円未満で売上金額に応じて推移していますが、「散布図②」における近似直線は10百万円超~20百万円未満の金額で推移しており、結果として5百万円程度の監査報酬の底上げが全体的に図られた様子がうかがえます。
また、「散布図①」では20百万円を超える報酬水準はごく限られた数となっていましたが、「散布図②」では、25百万円を超える報酬水準の数も増加し、高いところでは30~40百万円の水準となっているケースも散見され、上方への可変性も生じている様子がうかがえます。
ここ数年では、主に監査時間が継続的に増加してきたことに伴い、監査報酬も増加傾向が続いてきましたが、今般、四半期報告書制度の見直しも予定されていることから、監査報酬の増加に歯止めがかかることも期待されます。加えて、AIをはじめとする最先端技術の活用により、監査の効率性が向上する等の変革が進んでいくことも期待したいところであります。
(畠中)