今回は、新たに上場する会社が上場時に公表する業績予想資料について書きたいと思います。
なお、以下には、伝聞や私個人の考えに基づく内容が含まれていることにご注意ください。
(前提として)
一般市場に新たに上場する会社は、自社の業績予想数値を、上場承認日には報道機関向けに、上場日には市場全体に公表しています。(両者の内容は基本的に同じです)
そしてこれらの業績予想資料(表形式による業績予想の開示)は、東証が作成した開示フォーマット(以下、「現行様式」とします)にしたがっています。
(注)「現行様式」は、キーワード「東証 上場日における開示について」でネット検索、閲覧することができます。
(1)上場承認日に開示された業績予想数値の入手について
上場承認日に報道機関向けに提供された業績予想の内容は、「公開価格決定に影響を与えないように」という配慮から報道されない、と聞いたことがあります。
実際、上場承認日に会社が公表した業績予想資料をネットで検索しても、なかなか見つけることはできません。(一般投資家が業績予想資料を容易に入手できるようになるのは上場日から)
しかしこのような状況下でも、以下の会社については、上場承認日に業績予想数値を入手することができます。
①名古屋証券取引所に上場予定の会社
東証をはじめとする取引所は、上場承認の際に新規上場会社の情報を記載した「新規上場会社概要」を公表しますが、名証のみ他の市場と様式が異なっており、会社の業績予想数値が記載されています。(「予想数値は会社公表資料による」との注記あり)
②野村証券が主幹事である会社
野村証券が主幹事を務める会社は、上場予定市場に関係なく、上場承認日に各社のWebサイトで、報道機関に配布した業績予想資料を開示しています。(投資勧誘目的の資料でない旨の注記あり)
このような開示を行う理由については、「フェア・ディスクロージャー・ルール」(FDルール)の考え方に沿ったものらしいという話(注)を聞いたことがあります。
(注)FDルールの場合、複数の報道機関に情報を公開し12時間経過すると、報道の有無にかかわらず公表として扱われます。
このケースは、「上場承認時に業績予想を報道しないのが慣例であるならば、会社は報道機関への情報提供とは別に、市場に向けて情報開示を行うのがフェア」という考えによるものと思われます。
(2)業績予想資料(表形式)の並びについて
私の微かな記憶では、1990年頃の業績予想資料の表は以下のような様式で、決算数値は時系列に左から右(→)へ並んでいたように思います。
【1990年頃】
直前期実績 |
申請期予想 |
その後、時期は不明ですが、業績予想の表の一般的な様式は以下のように変わりました。
【変更後の様式】(注)
申請期(通期)予想 |
直前期実績 |
申請期第●四半期累計実績 |
(注)最も重要な申請期予想を左に、申請期の最新四半期実績を参考として右に配置。
上記様式は2012年頃までの主流でしたが、2013年後半から2014年にかけて、「現行様式」と同じ様式が広く使用されるようになっています。
【現行様式】
申請期第●四半期累計実績 |
直前期実績 |
よく見ると、「現行様式」の表は、決算数値が時系列に右から左(←)へ並んでいます。
東証が「現行様式」を作成するにあたり、何か参考にしたものがあるのかも知れませんが、それでも私は「時系列に並べるなら左から右(→)とする方が見やすい」と思います。
(申請期予想の欄を太枠で囲むなどすれば、左に配置しなくても重要さは伝わります)
(3)業績予想数値の「対前期増減率」の誤り
「現行様式」の「申請期予想」の欄には、対前期増減率も記載することになっています。
(例)申請期売上予想120、直前期売上実績100の場合、対前期増減率は20%。
しかし、誤って前期比(上記の例の場合120%)を記載して開示する会社が、肌感覚で毎年1〜2社あります。(今年も既に事例が出ています)
年間100社前後上場するうちの1〜2社ですし、大袈裟に指摘するほどの内容でもありませんが、申請会社・主幹事証券・取引所の担当者が事前に目を通す資料でこのような初歩的なミスが発生するのには、「現行様式」に関する以下の事情が影響しているかも知れません。
①審査資料(Ⅱの部や各種説明資料)の損益計画の項目では、慣例として前期比を記載することが多いのに対し、開示用の「現行様式」では対前期増減率を記載するため、転記の際にミスが起きやすい。
②「現行様式」では、決算数値を時系列に右から左(←)へと記載するため、他の資料と照合しにくい。
(原田)