東証での株式の売買は、各上場企業が定款で定めた単元株式数を単位として行われています。そして、現在の東証での売買単位は100株で統一されています。東証は望ましい投資単位の水準を「5万円以上50万円未満」と規定しているため、単元株が100株であることを踏まえると望ましい株価レンジは500円~5,000円ということになります。
このため、新たにIPOする企業は上場直前に単元株を100株に設定するとともに、上場時の公募・売出しの価格が上記の株価レンジに収まるように株式分割を実施した上でIPOすることが通例となっています。
今回、東証は制度改正を行い、望ましい投資単位として規定していた「5万円以上50万円未満」の水準について、下限の「5万円以上」の水準を撤廃することになりました(制度改正は23年10月を目途に実施)。この改正により、今後は500円未満の株価でも問題はなくなります。
市場ではこれに呼応する(先取りする?)動きがありました。それはNTTが23年7月1日付で実施した、1株を25株にする株式分割です。上場企業の株式分割自体は珍しくないものの、NTTのような大企業が25分割という大型分割をすることは異例です。この分割により株価は大きく下がり、現在のNTTの株価は164.2円(23年8月14日時点)となっています。単元株である100株を購入するために必要な資金は16,420円となり、かなり少額からの投資が可能となりました。実際、NTTは分割の目的として「2024年から新しいNISA制度が導入されることも踏まえ、株式分割を行い、投資単位当たりの金額を引き下げることにより、より投資しやすい環境を整え、当社グループの持続的な成長に共感していただける投資家層を幅広い世代において拡大することを目的としております」と発表しています。
このNTTの分割は、個人投資家も投資がしやすくなったという点でとても良いことだと思います。一方で、日本の株式市場全体で少額での投資をしやすくするためには他の多くの上場企業もNTTのような大幅な株式分割をする必要があります。各社での事務負担などが発生しますし、そこまでの分割を行う考えを持たない企業も相当数あると思われ、市場全体での実現は簡単ではありません。
そこで、そもそもの単元株制度を廃止し、売買単位を1株単位にすることも一つの検討案ではないでしょうか。上場直前に必ず単元株を100株に設定することから、IPO支援をしている私も100株単位が当たり前の感覚になっていますが、米国の株式市場を見てみると1株単位での売買が基本となっており、単元株制度というものはありません。日本も同様に1株単位での売買とすれば数百円~数千円から株式投資ができるようになり、より気軽に投資が行えるようになります。また、表示されている株価の金額そのままで購入できるという分かりやすさもあります。
岸田政権が掲げている資産所得倍増プランにおいては「1億総株主化」として、国民全員が投資を行い、投資した資産から得る収入を増加させていくことを目指しています。単元株制度を廃止すると株主数が増加し会社の事務コストが増加する等のデメリットもあるのでしょうが、特に投資未経験者が投資を始めやすい環境整備として、1株単位での売買も検討の余地があるように思います。
(関口)