現在、日本証券業協会では、「公開価格の設定プロセスのあり方等に関するワーキング・グループ」(以下WG)の報告書に基づき、公開価格決定プロセス等について見直しが行われています。
WGの議論には、公開価格の決定方法である「入札方式」の改善も含まれていますが、入札方式は1997年にブックビルディング方式(以下、BB方式)が公開価格の決定方法として認められて以降、一度も利用されていないそうです。
そこで今回は、WG報告書のうち、この「入札方式」の問題点について考えてみることにしました。
1. 入札方式の概要
時期によって、何度か制度変更が行われていますが、入札方式の内容は概ね以下のようなものです。
①公募・売出株数の50%以上を、一般競争入札に供する
②入札申込みの下限価格は類似会社比準価額の85%
(15%は、有利発行にならない限度のディスカウント幅)
③入札申込み株数の上限:原則として1単元の株式数(利用当時は1,000株が主流)
④高い価格で応札した者から順に落札する(落札価格はそれぞれの応札価格)
⑤入札対象以外の公募・売出株式の販売価格(公開価格)は、入札における落札加重平均価格をもとに決定(価格決定日から上場日までの期間リスク等について数%のディスカウントあり)
2. 入札方式の問題点・疑問点等
(1)入札申込み株数に上限があり、価格算定能力の高い機関投資家、外国人投資家等の大口投資家が入札(=公開価格決定)から排除される結果となったこと
①この点についてはWGの資料でも、「機関投資家の参加を促すために大口の入札を認めてもよい」との意見が述べられています。
ただし、機関投資家が入札に参加しても、「落札するのは高い値段で申し込む個人投資家ばかり」となれば、公開価格(≒落札加重平均価格)に、大口投資家の意見は全く反映されませんので、価格の決定方法については、もうひと工夫必要になるかも知れません。
②形式要件(株主数基準)の充足
新規上場会社の多くは、上場時の公募・売出で取引所の株主数基準(たとえば株主400人以上)を充足することを予定しています。
過去の入札制度では、落札者はほぼ個人(小口投資家)であり、落札分だけで数百名の株主を作ることができましたが、仮に大口の入札が認められ、入札株数を少数の大口投資家が全株落札したとすると、株主数基準の充足は入札後の公募・売出に頼る必要があるかも知れません。
(2)入札後の販売先の問題
入札方式を利用したA社のIPO時の公募・売出について、以下のような例を考えます。
公募・売出株数(うち入札株数) |
A社株式2,000千株(1,000千株) |
最高落札価格 |
1,500円 |
最低落札価格 |
1,000円 |
公開価格(≒落札加重平均価格) |
1,400円 |
この例では、引受証券会社は、入札後の公募・売出株式1,000千株を1,400円で顧客に販売することになります。
本来なら、入札後の公募・売出株式の販売先の有力候補は、A社に興味を持って入札に参加したものの、落札できなかった顧客としたいところですが、落札できなかったということは、顧客の応札価格は、最低落札価格(1,000円)以下だったということです。
A社株式を「1,000円以下で買いたい」と考えていた顧客が、「1,400円でも欲しい」と考えを変えるのは、短期間では難しいかも知れません。
(現在のWG案では、上場日程の期間短縮も提案しているのですから、なおさらです)
上記のような問題を解決するには、入札方式の改善に際し、少なくとも以下のような施策が必要と思います。
①入札には、価格算定能力の高い大口の投資家も参加できるようにする
②入札後の公開価格の決定は、落札加重平均価格など機械的な算定によらず、大口投資家の意見を優先的に反映させるため、主幹事証券の裁量を認める
③入札株式の配分(落札者・落札株数の決定)は、価格優先としながらも、ある程度主幹事証券の裁量を認める(入札後の公募・売出や上場後の流動性まで考慮する)
ただ、この内容は、もはや入札方式ではなくBB方式ではないか、という気がしないでもありません。
(原田)