最近人的資本の開示に関するニュースをよく見かけるようになりましたが、人的資本開示の議論に関しては、投資情報としての有用性の観点と、ダイバーシティに関する観点があるように思えます。欧米諸国では、規則等の改正も含めて人的資本の開示の義務付けも進んでいるようです。
日本においても、岸田内閣の施政方針演説の中に「人的投資が、企業の持続的な価値創造の基盤であるという点について、株主と共通の理解を作っていくため、今年中に非財務情報の開示ルールを策定します。」ということが述べられており、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループにおいて、「人的資本・多様性に関する開示」についての検討が行われています。
では現在、有価証券報告書における人的資本の開示はどのようになっているでしょうか。
有価証券報告書における【従業員の状況】の記載内容は以下のとおりであり概ね1ページ程度の開示となっています。
・連結会社の状況(従業員数)
・提出会社の状況(従業員数、平均年齢、平均勤続年数、平均年間給与)
・労働組合の状況
一方で【設備の状況】に関する開示内容は以下のとおりです。
・設備投資等の状況
・主要な設備の状況(設備の内容・帳簿価額)
・設備の新設、除却等の計画
【設備の状況】は定性的な情報についても開示が必要であり、開示内容は、【従業員の状況】と比較し手厚いと言えます。これは特に20世紀における製造業中心の産業構造を背景とした開示制度の名残と言えるでしょう。
有価証券報告書における現状の人的資本の開示状況は上記の通りですが、2021年6月改訂のコーポレートガバナンス・コードでは、開示制度改正に先立ち、人的資本の開示についてあるべき方向性が示されています。内容としては以下のとおりです。
・中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と目標、その状況を開示すべき
・多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針と実施状況を開示すべき
・人的資本や知的財産への投資等について開示すべき
以上のような背景も踏まえ、ディスクロージャーワーキング・グループは、以下の開示を求めることを方針としており今年中にルールが制定される予定となっています。
・「中長期的な企業価値向上における人材戦略の重要性を踏まえた「人材育成方針」(多様性の確保を含む)や「社内環境整備方針」の開示
・上記の「方針」と整合的で測定可能な指標(インプット/アウトカム)の設定、その目標及び進捗状況の開示
・企業の多様性確保に係る指標として、女性管理職比率、育児休業取得率、男女間賃金格差等、中長期的な企業価値判断に必要な項目の開示
このような開示が求められた場合、企業側の負担も相当なものになると思いますが、人的資本の開示は、無形資産や知的財産の開示等と共に、今後投資情報としての有用性が増すものと思われ、改正の動向には留意が必要です。
(参考資料:第7回金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ事務局説明資料)
(古川)