IPO会社(TOKYO PRO Marketを除く)は、取引所による上場承認の発表後、約1か月のファイナンス期間を経て、取引所に上場します。
ほとんどの会社は、上場が承認されれば、そのまま上場までたどり着くのですが、ごくわずかながら、上場承認はされたものの、上場までの約1ヶ月の間に不測の事態が発生し、上場を中止または延期(以下「中止」とします。)する会社が出ます。
今回は上場承認後に、上場中止を決定した会社の事例を見ていきたいと思います。
1. 上場承認後、上場を中止した会社数(TOKYO PRO Marketを除く)
毎年数件の中止が出ます。2020年はコロナ禍の影響で市場が混乱し、上場をいったん中止する会社が続出しました。
(単位:社)
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2016 |
2017 |
2018 |
2019 |
2020 |
2021 |
承認社数 |
85 |
92 |
95 |
88 |
112 |
60 |
上場社数 |
83 |
90 |
90 |
86 |
93 |
57 |
中止社数 |
2 |
2 |
5 |
2 |
19 |
3 |
(注1)ある会社が上場承認後に上場を中止し、同じ年に再承認された場合、承認社数は2社とカウントしている。
【上場中止と再承認が同年の会社】
2018年:中止5社中1社
2020年:中止19社中10社
2021年:中止3社中1社
(注2)2021年は6月14日までに上場承認された会社が対象。(上場社数には上場予定を含む)
2. 中止の理由
中止の理由が詳細に開示されることは、ほとんどありません。会社発表資料等から推定される理由は、概ね以下のようなものです。
①会社の業績等に影響を与える可能性のある事象の発生
(例)業界動向、会社の大口見込み案件の動向等
②会社の内部統制の有効性に関して確認すべき事項の発生
(例)不適切会計やコンプライアンス上の問題(ハラスメント等)の発覚、
もしくはこれらに関する内部告発等
③一時的な証券市場の混乱
④公開価格に対する大口株主の思惑
3. 個別の事例
①2回、上場を中止した事例
2021年3月16日に上場したウイングアーク1st㈱は、2019年と2020年にも上場承認が公表されましたがいずれも中止。3回目の承認で東証1部に上場しました。
他には、Avanstrate㈱が、2011年と2012年の計2回、上場承認発表後に上場を中止した例があります。
②再承認時に、前回中止時の懸念事項の確認結果を開示した事例
㈱インバウンドテックは、2018年5月25日にマザーズへの上場承認が公表されましたが、社内において確認すべき事項があるとして上場を中止。その後同社は、2019年に、第三者委員会の「上場にあたって懸念される事項等、重大な問題点等は発見されなかった」との報告を入手し、その旨を開示の上、2020年12月18日にマザーズへ上場しました。
③ファイナンス期間中に顧客情報の漏えいが発覚した事例
2016年11月にマザーズへの上場承認が発表された㈱ZMPは、直後に顧客情報の漏えいが発覚。いったんは、情報漏えいやその影響の概要を「事業等のリスク」に追記してファイナンス手続きを続行しましたが、2016年12月8日(公開価格決定日の前日)に上場の中止を発表しました。
(原田)