既にご存知と思われますが、約120年ぶりに民法が改正され、2020年4月1日より施行されます。改正項目は多岐に亘りますが、遅ればせながら気になった改正項目は以下のとおりです。
■債権の消滅時効期間の変更
消滅時効とは、権利を行使しないまま一定期間が過ぎた場合、その権利が消滅する制度です。現行の民法では原則10年と規定されていますが、職業や請求の種類によっては1~5年の「短期消滅時効」が定められています。改正後は、この「短期消滅時効」が廃止され、「権利を行使することができる時から10年」という従来の原則的時効期間に加えて、「権利を行使できると知った時から5年」という規定が設けられ、いずれか早い方の経過によって時効が完成します。
この民法の「短期消滅時効」が廃止となるため、労基法上の未払賃金債権の時効についても影響を受けることとなります。
従来の労基法では、労働者が過去2年にさかのぼり未払賃金を請求できると定めていましたが、改正民法ではすべての債権の消滅時効が原則5年に延長されることを受けて、労基法においても、残業代などの未払賃金を請求できる期間を現行の2年から当面3年に延長するという内容の改正労働基準法が施行され2020年4月以降に発生した賃金債権より適用されることとなりました。但し、当面3年に延長するものではありますが、改正民法では賃金に関する債権の消滅時効が原則5年となっているので、労働者保護のため優先して適用される労基法の方が民法より請求期間が短くなっていることを踏まえて、今後は5年とすることも検討されるようです。
IPO準備において、時効期間の過去2年間に遡って未払残業代等を支給する場合がありますが、今後は留意する必要があるかと思われます。
■個人根保証契約の極度額の定め
改正民法により、個人根保証契約を締結する場合には、必ず契約締結時に極度額(保証人の責任限度額)を定めなければならず、極度額を定めていない保証条項は無効となってしまします。従前は、貸金等債務が含まれていた場合に極度額の定めが必要とされていましたが、これが含まれない個人根保証一般にも拡大された形です。
この改正による影響の一つとしては、不動産賃貸借契約において連帯保証人として個人が保証する場合が挙げられます。これまでの不動産賃貸借契約書では、通常連帯保証人を設定する際に、保証する最大限の額(極度額)の定めがなく、連帯保証をしていることが通常でしたが、民法改正により、2020年4月以降に締結する賃貸借契約において連帯保証人として個人が保証する場合に、保証する最大限の額(極度額)を定めなければならず、極度額を定めていないと保証条項が無効となってしまいます。
また、従業員の採用時に従業員の身元保証人と結ぶ身元保証契約においても、保証額の限度設定が必要となります。従来は、身元保証契約や身元保証書の内容に保証額の記載がなかった場合でも、身元保証人は連帯して責任を負わなければなりませんでしたが、民法改正後は限度額が定められていない場合、身元保証人との保証契約は無効となってしまいますので、留意が必要と思われます。
その他の主な改正項目として、瑕疵担保責任から契約不適合責任への変更、法定利率の5%から3%への変更(3年ごとに見直し)、相殺禁止の緩和等々が挙げられますが、改正項目が200にも及ぶため留意して対処することが必要でしょう。
(黒川)