2019年6月に「JPX 自主規制法人の年次報告 2019」が発表されました。
IPOに関しての注目部分としては、2018年度の業務の実施状況と言う項目の上場審査についての記載です。
IPOを行う場合、上場の申請は証券会社がJPX自主規制法人の上場審査部に行います。その上場審査部が審査を実施した社数が254銘柄(市場変更や指定替えを含む)で、その内、申請後に承認に至らなかった銘柄数は46銘柄という結果だったようです。
Q:承認に至らなかった会社とはどういう状態なのか
表現を変えると会社が申請を取り下げた社数を意味しているようです。また、46社のカウントには審査日程が当初より延期していても引き続き審査中の会社は対象になっていないようです。従いまして、今後取り下げる会社がまだ出てくる可能性があると言うことです。
申請会社は上場準備のために相当の苦労をして来ていますので、本来、自主的に審査の取り下げを行いたいと申し入れることは殆ど無いといって良いでしょう。従って、これは上場審査部と申請会社または主幹事証券会社との間で話し合いが行われて取り下げの要請があったと思って良いでしょう。
Q:取り下げの理由には何があるのか
基本は、内部管理体制等が不十分と言うことです。
*各種法令尊守体制
*子会社管理等の業務上必要とされる管理体制
*オーナー経営者に対する牽制体制の構築
などが報告書に記載されています。ただ、報告書に記載しにくい内容もあると思われます。内容は一部重複するものもありますが、例えば内部通報(投書など)があった場合などです。内部通報があるとその確認作業に時間を要して時間切れとなるケースがあります。
また、上場審査部サイドだけの理由では無いものもあります。例えば、主幹事証券と申請会社間で、株式評価に対する意見(高い、安い)のギャップに関するものです。このギャップが生じる背景としては、当初の評価の前提となる業績に差異が生じた場合、審査中に外部環境の変化が生じ市況に影響が出ている場合、などなどです。このような場合は、主幹事証券が上場を当面見合わせるよう要請するか、申請会社の方から上場のタイミングを伸ばしたいと要請する場合もあります。
さて、何故この時期に上場審査部が申請後に承認に至らなかった会社数や理由を記載したのか。これも報告書に記載されています。「・・・内部管理体制等に係る上場審査基準を満たさない事案が多く認められたことから、当法人では、各幹事取引参加者に対して公開指導及び引受審査の徹底を要請しました。・・・」と。すなわち、各幹事取引参加者とは主幹事証券を中心として証券会社であり、その証券会社に対して、事前にもっと十分な指導をしてほしいという要請なのです。申請段階に至るまでには、取引所も各証券会社も苦労を重ねて多大なる時間を費やすことになります。取引所も証券も審査担当や準備指導者の人材が不足しており、さらに労務管理(残業管理等)も厳しい状況ですので、出来るだけ無駄を取り除きたいと言うことでしょう。
ここで私はもう一つの側面を強調したいと思います。そもそも上場準備作業で最も時間と費用をかけてきているのは申請会社です。申請会社にとって上場を見合わせることは、予定していた資金調達が出来なくなり、設備投資や優秀な人材採用が出来なくなり、今後の成長戦略に狂いが生じると言うことです。しかも直前に修正せざるを得なくなるのですからダメージは計り知れません。一方、準備会社が注意すべきことも多くあります。承認されないのは、証券会社や取引所だけの責任ではなく、上場準備の主体は申請会社なのだと言うことです。準備会社が上場企業になることの意味を十分理解せず、管理体制の整備作業を疎かにし、他人事になっているケースが多くあるのではないでしょうか。
今回の自主規制法人の上場審査部の報告は、多くの課題を投げかけていると思います。改めて各幹事取引参加者(証券会社等)だけでなく、申請会社(準備会社)も上場とは何を整備すべきものなのか、誰がどのレベルまで対応すべきものなのかを確認する良い機会になればと思います。
(鈴木)