今年に入り株式市場は日経平均等が上昇しています。このような時はIPOの市場関係者も強気になる傾向があります。関係者の間では年内のIPO社数が100社以上になるとの声が多くなってきています。そもそも株式市況は数か月あれば乱高下することが良くあります。市況の動向は変動要因が多く複雑に関連しているため予測が困難です。一方、IPOの社数予測については経済環境や企業業績動向だけで短期間に増減すると考えるには無理があると思えます。確かに、企業業績がアップすると言う事は、業績の審査上は大きなプラスになります。その為、成長性が審査上のボーダーラインにある会社の上場実現性はアップします。しかし、IPOを実現するためには組織の整備を検討しながら管理スタッフの人員補強などを行い、多くの時間を管理体制の整備などに費やすことを考えると、これらの体制作りは短期間に整えられるものではありません。業績が良くなりそうだからと言って直ぐに審査をクリアーするのは基本的に困難なのですが、それが最近可能になっているとすれば、管理体制を突貫工事で行い、かつ、審査も突貫で行っている可能性があるように思います。
IPO実現のために係る関係者のメインプレーヤーは、証券会社、監査法人、取引所などです。さらに、IPO時期の意思決定にはベンチャーキャピタル各社も大きく関与していることもあるでしょう。これら関係各社は激烈な競争環境の中で、IPO社数を伸ばし、収益も追及しています。従って、IPO出来そうな環境だと判断すると無理を承知で可能性に賭けることもあるでしょう。
これ自体が問題だとは思いません。短期間でも十分な体制構築が出来ることもあるからです。さて、昨今はどうでしょうか。IPOの社数が年間19社や22社と低迷していた時期には、関係各社は部員数などを大幅に削減してきました。現在は支援要員を急激に増やしていますが、短期間では育成出来ないものなのです。従って、IPO希望社数が増えてきている現在は、休みも一部返上しながら時間を惜しんで対応しているようですが支援要員は明らかに不足しているのが実態です。支援要員が不足し、時間の無い中で、短期間の突貫工事のような対応で、十分な準備指導や審査が行われなくなった時には、IPO後に問題が発生するものです。例えば、IPO直前に発表した業績予測を、直後に大幅に下方修正する企業、また、コンプライアンス意識が不十分で不祥事を起こしてしまう企業もあります。現在の現象はほんの一部の会社の先行発覚に過ぎないのではないかと思われます。実際は、潜在的に問題を抱えた会社が多く、それらは数年たった時に発覚することもあるのではないでしょうか。株式市場とは異にしますが、数年前に手抜き耐震工事により大きな被害が出ました。また、最近の不正免震装置の設置問題は被害が出る前に発覚しましたが、IPOの準備と審査などとどこか似ているように思います。最近はコンプライアンス意識の重要性やコーポレートガバナンス・コードなどの議論が盛んになって来ていますが、IPOの準備段階からこれらの意識を植え付けていないと問題解決は出来ないでしょう。その為には、IPO希望企業だけでなく、支援する関係者一人一人が意識を変えることが重要なのでしょう。いや、支援する関係者の中でも、関係機関のトップ層が意識改革を行う必要があります。トップ層以下の支援者は要員の少ない中でも何とかやりくりしていることを考え得ると寧ろ被害者であるのかも知れません。弊社も力不足で多くの企業の支援までは手が回りませんが、弊社のクライアントや支援する関係者の為に出来るだけお役に立てられるように、常にこのような意識を持って対応したいと思います。
( 鈴木)