【原田】ブックビルディングの状況を読む

 現在、新規上場時の公募等の手続きとしては「ブックビルディング」が、事実上、唯一の方法となっています。

 ブックビルディング方式では、「ブックビルディングにより把握した投資家の需要状況に基づき、上場日までの期間における有価証券の相場の変動により発生し得る危険及び需要見通し等を総合的に勘案して公開価格を決定する」ことになっていますが、実際の投資家の需要状況はどのようなものなのでしょうか?

 ブックビルディングにおける投資家の需要状況を知る手がかりとして、各社が公開価格決定時に提出する「有価証券届出書の訂正届出書」(以下、「訂正届出書」)の記載が参考になります。

 たとえば、公開価格が仮条件の上限で決まった会社の、ブックビルディングの状況に関する典型的な記載は、以下のようなものです。

  申告された需要株式数は、公開株式数を十分に上回る状況であったこと

  申告された需要株式件数は多数にわたっていたこと

  申告された需要の価格毎の分布状況は、仮条件の上限価格に集中していたこと

 

 さらっと書いてありますが、①~③は、いずれも公開価格を仮条件の上限で決定するために必要な情報と思われます。(この点について、以下で「ブックビルディングの仮条件が1,000円~1,200円」、「需要の申告は1,000円と1,200円の2種類のみ」という前提で考えてみます)

 

(例1) ①と③の記載から、以下の可能性は排除

株価

需要株数

説明

1,200円(上限)

0

公開株数 100,000

需要株数は十分だが下限に集中(公開価格は下限となる)

1,000円(下限)

500,000

 

(例2) ②と③の記載から、以下の可能性は排除

株価

需要株数

需要件数

備考

1,200円(上限)

500,000

1

公開株数100,000

売り切るだけなら上限でよいが、上場時株主数(例えば1,000人)を作るために、公開価格は下限となる

1,000円(下限)

1,000,000

2,000

 

 さらに、上限価格に十分な需要株数があれば、①実際の需要は上限価格(例では1,200円)以上のところにあり、②(価格決定日から上場日までの状況の変化のリスクを考慮しても)ブックビルディングで割り当てを受けなかった多くの投資家が、上場日に上限価格(以上)で買い注文を入れてくる(=初値が公開価格以上となる)と予想できます。

 上記は極端な例ですが、このような状況を積み上げて公開価格は上限で決定されたものと思われます。

 

 今回は公開価格が仮条件の上限で決定される例について見てみましたが、この他にも、公開価格が「仮条件の下限で決定された例」、「上限と下限の中間で決定された例」については、訂正届出書の記載が微妙に異なります。

 訂正届出書の記載を見て、需要の状況を推測してみるのもおもしろいのではないでしょうか。

 

原田

 

IPO状況12月27日現在

2024IPO数(通期)=86*

2023IPO数(通期)=96*

 

市場別

2024

(通期)

2023

(通期)

プライム

スタンダード

グロース

メイン-名

札幌(本則)

ネクスト-名

アンビシャス

4*

13

64

1

0

4

1

2

23

66

5

1

1

0

 Qボード 3 1

合計

  90

99

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過年度のIPO状況

2023IPO(通期)=96*

 

市場別

2023

(通期)

2022

(通期)

プライム

スタンダード

グロース

メイン-名

札幌(本則)

ネクスト-名

アンビシャス

2

23

66

5

1

1

0

3※1

142

70※3

2

0

2

1

 Qボード 1 0

合計

   99

92

 複数市場へ同時に上場する会社があるため、IPO社数と市場別内訳の合計は一致しない点にご注意ください。

1:東証11社を含みます。

2:東証2部+JQ4社を含みます。

3:マザーズ10社を含みます。

 

2022IPO数(通期)=91

 

市場別

2022

 (通期)

2021

(通期)

プライム

スタンダード

グロース

東証1

2

10

60

1

6

東証2

3

8

マザーズ

10

93

JASDAQ

メイン-名

1

2

16

名証2

0

3

ネクスト-名

セントレックス

2

0

1

Qボード

アンビシャス

0

1

3

合計

92

130

 複数市場へ同時に上場する会社があるため、IPO社数と市場別内訳の合計は一致しない点にご注意ください。