KAMは(Key Audit Matters)の略で、「監査上の主要な検討事項」と訳されています。
KAM(監査上の主要な検討事項)は、監査人が「当年度の財務諸表の監査の過程で監査役等と協議した事項のうち、職業的専門家として当該監査において特に重要であると判断した事項」をいいます。(監査基準 第四 報告基準 二 2(2))
KAMは監査報告書上に、監査意見とは別の区分を設け、記載されます。
(KAM導入の経緯〜監査報告書の透明化)
従来の監査報告書は、記載文言を標準化して監査人の意見を簡潔明瞭に記載する形式でした。
しかし、近年の上場会社等の不正会計事件をきっかけに、会計監査の信頼性確保の取り組みの一環として、監査意見に加え、監査人が着目した虚偽表示リスクなどを監査報告書に記載する制度の必要性が叫ばれるようになりました。
(「会計監査の在り方に関する懇談会」提言など)
(KAM決定のプロセス)
①監査計画段階から、監査役等とKAM候補についてコミュニケーションを行う
②監査役等とのコミュニケーションを行った事項の中から、以下の点に考慮して、「監査上特に注意を払った事項」
を決定する。
・特別な検討を必要とするリスク又は重要な虚偽表示のリスクが高いと評価された領域
・見積りの不確実性が高いと識別された会計上の見積りを含む、経営者の重要な判断を伴う財務諸表の領域に関連
する監査人の重要な判断
・当年度において発生した重要な事象又は取引が監査に与える影響
③「特に注意を払った事項」の中から、特に重要であると判断した事項をKAM(監査上の主要な検討事項)とす
る。
(KAMの内容)
KAMは2021年3月期の有価証券報告書等に含まれる監査報告書から導入されます(2020年3月期から早期適用可能)が、導入に先立ち、一部の上場会社と監査法人によるKAMの試行が行われ、その結果が日本公認会計士協会から公表されています。
試行の結果選定されたKAMの領域は、以下のとおりです。
(出典:「KAM試行の取りまとめ」日本公認会計士協会 2017年11月17日)
・資産(のれん以外の固定資産)の減損
・企業結合に関する会計処理、のれんの計上及び評価
・引当金・資産除去債務・偶発債務
・収益認識(工事進行基準、変動対価の見積り、期間帰属、過大計上リスク)
・資産の評価(公正価値測定を含む)
・税金計算(繰延税金資産の回収可能性を含む)
・専門的で複雑な計算を伴う準備金(会計上の見積り)
・連結範囲
・財務報告に関連するIT情報システム
(IPO会社のKAM)
IPO会社(上場時ファイナンス時点で非上場)の場合も、監査報告書にKAMの記載が必要となります。
ただし、直前期末資本金5億円未満または直前期売上高が10億円未満かつ直前期末の負債総額が200億円未満の会社は、KAMを記載しないことができます。
(財務諸表等の監査証明に関する内閣府令 第4条10項、同第3条4項2号)
言い換えるとIPO会社は、以下の場合のみ、上場時の監査報告書にKAMを記載することが必須となります。
①直前期末負債総額が200億円以上、
②直前期末負債総額が200億円未満であっても、直前期売上高が10億円以上、かつ、直前期末資本金が5億円以上
(注)直前期売上高には、「直前事業年度の売上高」と「直近3年間に終了した各事業年度に係る損益計算書による売上高の額の合計額を3で除して得た額のうちいずれか大きい方」を採用します。(財務諸表等の監査証明に関する内閣府令 第3条4項2号)