2022年2月28日付「公開価格の設定プロセスのありかた等に関するワーキング・グループ」報告書の提言を受け、2023年10月1日以降上場承認された会社について、
・仮条件の範囲外での公開価格設定
・売出株式数の柔軟な変更
・上場日程の期間短縮・柔軟化
の3点の改善策の運用が開始されました。
本項目では、上記のうち主に「仮条件の範囲外での公開価格決定」について説明します。
なお、説明の内容は2023年11月現在の状況に基づくものであることをあらかじめご了承ください。
1. 新制度(仮条件の範囲外での公開価格設定、売出株式数の柔軟な変更)の概要
より需要(価格・株数)を踏まえた公開価格等を決定できるようにする観点から、「一定の範囲」内であれば、ブックビルディングをやり直すことなく、「仮条件の範囲外での公開価格の設定」及び「公開価格の設定と同時に売出株式数の変更」ができることが明確化されました。
この一定の「範囲」は、次の①〜③を全て満たす範囲をいいます。
○「一定の範囲」の概要 ① 公開価格が仮条件の下限の80%以上かつ上限の120%以下の範囲内で決定されること ② 「公開価格決定時の売出株式数」が「仮条件決定時の売出株式数」の80%以上かつ120%以下の範囲内であること ③ 「公開価格決定時のオファリングサイズ(株式数※× 公開価格)」が、「仮条件下限× 仮条件決定時の株式数×80%以上かつ仮条件上限×仮条件決定時の株式数×120%以下」の範囲内であること ※ 株式数:募集株式数+売出株式数 |
(日本証券業協会:IPOにおける公開価格の設定プロセスの変更点・留意点等について)
なお、ブックビルディングをやり直すことなく設定される可能性のある公開価格、変更される可能性のある売出株式数、オファリングサイズの具体的な範囲は、(訂正)有価証券届出書等の第一部 【証券情報】に記載されます。
2. 公開価格決定の範囲について
以下では、上記「一定の範囲」のうち、①に絞って説明します。
(1)「仮条件の下限の80%以上かつ上限の120%以下の範囲内」であること。
仮条件を1,000円〜1,200円と仮定します。
従来の制度では、ブックビルディングをやり直さない場合、公開価格は仮条件価格帯の範囲内、すなわち1,000円〜1,200円の範囲で決定していました。
一方、新制度では、ブックビルディングをやり直さない場合でも、ブックビルディングでの需要の状況に応じて、公開価格は800円〜1,440円の範囲で決定することができます。
※公開価格の下限=1,000円×80%=800円
※公開価格の上限=1,200円×120%=1,440円
(2)公開価格決定時のもう一つの要件について
有価証券届出書の第一部【証券情報】には、公開価格の決定範囲に関連して、上記(1)とは別に以下のような記載があります。
・募集について:引受価額が会社法上の払込金額(発行価額)を下回る場合、本募集は中止。 ・売出について:本募集を中止した場合、売出も中止。 |
結論からいうと、少なくとも上場時に募集を実施する場合には、この記載が制約となり公開価格を仮条件の下限の80%まで下げることができません。
この点について、以下で簡単な設例により説明します。
(注)「公開価格」、「引受価額」、「会社法上の払込金額(発行価額)」の詳細については、用語「発行価格、引受価額」をご参照ください)
【設例】上場時に募集を実施する場合
区分 |
設例 |
説明 |
仮条件 |
1,000円〜1,200円 |
|
会社法上の払込金額 |
850円 |
仮条件下限の85% (仮条件と同時に決定) |
スプレッド |
公開価格の8% |
証券会社の手数料相当額 (公開価格と同時に決定) |
引受価額 |
公開価格の92% |
実際に会社に払い込まれる金額 |
公開価格の決定範囲(1) |
800円〜1,440円 |
仮条件下限の80% 〜仮条件上限の120% |
公開価格の決定範囲(2)
|
公開価格の下限 924円 この時、引受価額=850.08円 |
引受価額が会社法上の払込金額を下回らない |
上記の例では、公開価格は800円〜1,440円ではなく、924円~1,440円の範囲で決定することになります。(ブックビルディングをやり直さない場合)
なお、ブックビルディングでの需要が弱く、公開価格が923円以下となる場合は、引受価額が会社法上の払込金額850円を下回るため、募集・売出は中止となります。
(注)既述の通り、実際には、売出株数とオファリングサイズの条件も考慮して公開価格を決定する点にご注意ください。
関連項目:発行価格・引受価額、スプレッド、有価証券届出書、目論見書、ブックビルディング、S-1方式(承認前届出書提出方式)